「画室の犯罪」(横溝正史)

名探偵が登場しないがゆえの味わい深さ

「画室の犯罪」(横溝正史)
(「横溝正史ミステリ
  短篇コレクション①」)柏書房

「画室の犯罪」(横溝正史)
(「恐ろしき四月馬鹿」)角川文庫

警察官の従兄に連れられて
「私」がのぞいた殺人現場は、
おびただしい血痕と
破壊の限りを尽くされた、
酸鼻を極めた光景だった。
現場にいたモデルの女性が、
画家殺しの容疑者として
捕らえられたが、
「私」はそれに異議を唱える…。

横溝正史の初期の傑作の一つです。
本書「恐ろしき四月馬鹿」は、
横溝の同名の処女作から始まり、
創作初期の作品のみを集めた
短編集です。
その3番目に収録されている本作品は、
それ以前の「恐ろしき四月馬鹿」
「深紅の秘密」に比べ、
格段に進化した作品となっています。

【主要登場人物】
西野健二(「僕」)
…無職の青年。
 従兄の世話になっている。
 殺人事件を解決し名探偵となる。
安田恭助
…アトリエの持ち主。殺害される。
板根百合子
…モデル。殺人現場に居合わせる。
町田
…事件の所轄署の署長。
沖野
…事件の真相を語る医師
松本(仮名)
…沖野の患者。空き巣。

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本作品の味わいどころ①
他殺に見せかけた自殺

ネタバレになり恐縮なのですが、
「他殺に見せかけた自殺」という設定が
本作品の肝です。
ではなぜそのような手の込んだことを
しなければならなかったのかという
「動機」が重要になるのですが、
その点もしっかりと
考え込まれています。
同じプロットとしてはもちろん
「本陣殺人事件」が挙げられます。
本作品のアイディアが
21年後にさらに成熟し、
金田一耕助の初事件として
結実したのでしょう。

本作品の味わいどころ②
若き探偵「私」の活躍

特定の名探偵は登場しません。
本作品はその後に探偵となって
活躍したという設定の「私」が、
若き日に解決した事件をふり返るという
構成を取っているのです。
何も取り柄のない「私」が、
たまたま連れてこられた事件現場で、
自分でも気付かなかった
推理の才能を発揮したという点が
読みどころです。

本作品の味わいどころ③
最後の大どんでん返し

そうした「私」の回想の形をとったのは、
結末4頁の
大どんでん返しのためなのです。
本作品の形式は、
最後の大どんでん返しのために
周到に準備され、
整えられたものなのです。
「私」とは異なる語り手が、
二十年前の事件の真相を
述懐していきます。
若き「私」の名推理が、
どのようにひっくり返されるのか、
ぜひ読んで確かめてください。

横溝の創作の中期以降は、
三津木・由利そして金田一と、
名探偵が活躍する分、
本作品のようなテイストの作品は
姿を消してしまいました。
そうした観点からも本作品の存在は
価値があるといえましょう。

本作品の発表は大正14年です。
大阪薬学専門学校在籍の4年間には
ほとんど作品を書いていなかった
横溝が、卒業とともに心機一転、
探偵小説を再び書き始めた頃の
作品なのです。
その後、横溝は乱歩との邂逅を果たし、
その誘いを受けて上京、
本格探偵小説の創作に乗り出します。

柏書房
「横溝正史ミステリ短篇コレクション
 ①恐ろしき四月馬鹿」
収録作品一覧
恐ろしき四月馬鹿
深紅の秘密
画室の犯罪
丘の三軒家
キャン・シャック酒場
広告人形
裏切る時計
災難
赤屋敷の記録
悲しき郵便屋
飾り窓の中の恋人
犯罪を猟る男
執念
断髪流行
山名耕作の不思議な生活
鈴木と河越の話
ネクタイ綺譚
夫婦書簡文
あ・てる・てえる・ふいるむ
角男
川越雄作の不思議な旅館
双生児
片腕
ある女装冒険者の話
秋の挿話
二人の未亡人
カリオストロ夫人
丹夫人の化粧台

(2018.9.3)

Yuri_BによるPixabayからの画像

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【横溝ミステリ短篇コレクション】

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